:: あいつはかわいいおとこのこ・3 ::
 軽く肩を押され、大人しくベッドに沈むと、寿也はその上に伸し掛かってくる吾郎の綺麗に筋肉のついた背中にしがみついた。
「しっかし、五万なんて相当ケチだよな」
 まじまじと寿也を見つめながら、吾郎が呟いた。全然目利きじゃねーという言葉には、この際目をつぶってやる。
「なら君ならいくら出してくれるんだい?」
 汗ばんだ掌が性急に寿也の身体を這っていく。昼間の男のもののように気持ち悪いだなんてみじんも思わなかった。
 少しずつ、けれど確実に、寿也の身体にある快楽の芽が育っていく。そうしてゆっくりと反応をし始めた寿也自身が、びくびくと痙攣しながら欲望を放つまで、さほど時間はかからなかった。
「いつもより早ぇな」
 荒い息を整える寿也を見ながら吾郎は意味深な笑みを浮かべていた。馬鹿、と腕を振り上げたけど簡単に押さえ付けられる。本当にこういうときだけ強いなんてすごくずるい。結局口も身体も完敗だったが、それが悔しくかったので足を軽く蹴飛ばした。プラマイゼロにはほど遠いけど。
 だが、だらしなかった笑顔が、寿也がまばたきをしたほんの少しの間にいつもの勝ち気な表情に変わっていた。
「寿也」
 顔が近付いてきてキスをされるかと思ったが、そうではなかった。額と額が軽くぶつかって、互いの吐息がかかる距離でストップする。
「いくら出すかって聞いたよな、さっき」
「うん」
「やっぱ、等価交換ってやつじゃね?」
 よくそんな難しい言葉知ってたな。……じゃなくて。
「それどういう意味、ていうより、何と何が等価なの?」
「んなの俺と寿に決まってんだろ」
 それが当然だというような傲慢な態度をとられてしまったら、もうどうにもできなかった。
 胸の内につっかえていたものがやっと全部取れた気がして、寿也も吾郎につられて笑う。
 昼間の男に言ってやりたい。たとえ何億積んだって、僕はあなたに抱かれる気はありませんよと。
「僕に拒否権は?」
「んなもん必要ねえよ。第一そんな気全然ないくせに。……ところで続き、してもいいか?」
 自信満々に言い切るわりに、律義に尋ねてくる吾郎がとてもいとおしいと思った。人のことを振り回すくせにどこまでも強引で、それなのに変なところで優しいずるい男。
「早くしないと寝るからね」
 猫のように唇をちろっと舐めてけしかけると、それを待っていたように吾郎が満面の笑みを浮かべる。
「吾郎君」
「今更嫌だって言っても無駄だからな」
 そっと耳元へ顔を寄せる。伝える言葉はたったひとつ。
「全部あげるよ」
「寿」
「もちろん等価交換だからね」
 やべぇって。呟きが聞こえたと思ったら、吾郎がいきなりシーツに突っ伏した。顔は見えないけれど、あらわになっている耳元が赤く染まっている。
「……やっぱり一つだけ間違ってる。かわいいのは僕じゃない」
「は?じゃあ誰がいんだよ」
 釈然としない様子の吾郎だが、それは君だよ、だなんて簡単に教えてしまったらつまらないじゃないか。
「……秘密かな」
 微笑みながら、寿也は吾郎の耳元にキスをした。


*
この話のプロットは、タイトルの他に「押しかけ恋女房」としか書いてありませんでした。未だによく分かりません。タイトルだけ気に入っていたので使い回し。
というわけで、全然違う話になったのですが、テーマは「吾郎が寿也に勝つ」だったのに……。最後にはフィフティーフィフティーになってる?
詰め込みすぎた感が否めない(笑)

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