:: くればいいのに ::
 きつい。
 正直言って、そう思った。
 味方の打線の援護が全くないって分かっている以上、何に頼ればいいのか。寄りかかれるのは自分しかいない。それなのにさっきの打席は手が出なかった。
 疲れと暑さが一気に襲ってくる。目が霞んで、18.44メートル先のミットがぼやけていた。
 見えない。勝負どころか、投げる場所すらも。
 いつの間にか、先制点、そして決勝点となりうるボールが頭上を越え、フェンスの向こうに落ちていた。
 足が痛い。痛み止めが切れたのかと、ぼんやりと思う。
 マウンドに来た田代の声もよく聞こえずに、代わりに香取の言葉が頭の中によみがえってきた。
『佐藤寿也に負けたのよ』
 悔しいが、認めざるを得ないのかもしれない。
 確かに、吾郎の隣にはいつも寿也がいた。どんなにキツイ試合でもあいつは絶対打ってくれる、あいつのミットめがけて投げれば絶対に勝てる。そう信じていられたのは、ゆるぎない信頼と実力があったからだ。
 この試合、もしも――もしも寿也がいたら。
 即座に首を振って否定をする。そんなことを考える自分にひどく嫌気がさした。
 こんなに弱気では、運命の女神も首を振って逃げていってしまうだろう。
 幸い、足の痛みが吾郎を正気へと呼び覚ましてくれたようで、彼は立ち上がると心配するチームメイトに笑いかけてみせた。
 あいつを倒すのは、絶対に俺だ。それまでは、もう打たせやしねえ。
 はっきりと目に映った田代のミットだけをめがけて、吾郎は振りかぶる。


*
確かVS香取のときに「寿也がいればいいのに」と思いながら書いてました。
タイトルはKREVAfeat草野マサムネより。別に誰も来ないけど。

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