:: 春の歌 ::
「とうとう、明日だね」
「そうだな」
 キャンプインする前に買った携帯電話で吾郎に電話をかけると、彼のことだからきっと寝付けなくてボールでも投げていたのだろう。大慌てした声が聞こえてきて思わず笑ってしまった。
 それが数分前の出来事で、さっきからずっと他愛のない会話のキャッチボールをしている。
でも、まだ大事なことは伝えてられていなかった。
 言いたいことも言えずに溜め込んだ、あの数か月のようにはもうしたくはない。
「吾郎君」
 すっと息を吸い込んで、寿也は機械の向こうに告げた。
「何があっても絶対に諦めないで。僕は日本で、僕にできることをするから」
 置いていかれるわけじゃない。吾郎をずっと待つわけじゃない。同じように前に進んで、彼と平行に歩いていきたいと思う。
 それが、寿也が出した結論だった。
 機械越しだけれど、吾郎の表情は手にとるように分かってしまった。きっと、不敵に力強く笑っているはずだ。
「最高のピッチャーになって戻ってくっから」
 相変わらずの自信たっぷりな台詞に、寿也もつられて笑う。
「僕も負けない。いつか一緒に、今度こそ黄金バッテリーを組もう」
「ああ。お前がメジャー来て、日本人バッテリーだな」
「うん、楽しみにしてる」
 確証のない、ずっと遠い未来はまだぼんやりと霞んでいた。でも、それを叶えるためにも、レギュラーを勝ち取らなきゃね、と付け加える。
「寿なら大丈夫だろ。ま、俺も問題ねーだろうし」
「根拠がないのに、よくそういうことを言えるよね」
「んなの自分で証明すりゃいいだけじゃん」
 簡単なことだろ、と吾郎は当たり前のように口にする。
 普通はそんなに気軽には思わないだろうが、こういう彼の持つ自信が、彼の力をパワーアップさせているのは事実だから、もうそれには触れなかった。
 その代わり、寿也は目を伏せる。
「……春が来る頃には、新しいスタートラインに立ってるんだね」
 これから互いに別々の場所に立つことになるだろう。でも、いつだって野球で、心で、それぞれ繋がっているはずだ。
 ひとりじゃない。だから、大丈夫だ。
「ま、きっとすぐ来ちまうんだろーけど」
「待ち遠しい?」
「当たり前だろ?やっと出発できんだから」
「……そうだね。君も、僕も」
 新しい門出を前に、ただ、春を待っていた。
 ――ふたりで。



*
やっと完結できました。お付き合いいただきありがとうございます。
この話を、他の方々のすばらしいお話とともに、「ゴロトシ」のひとつの形なのだと思っていただければとても幸せです。
三話だけだったはずなのに、最終的にはなぜか十三話になってました。びっくりです。ラストと「春の歌」っていうタイトルだけは連載当初から決まっていたのですが、それ以外はまっさらな状態でした。あんまりいちゃいちゃしてない!あっさり塩味のような感じですね(笑)
連載中のメールや拍手、すごく嬉しかったです。ありがとうございます。
また他にも長編とか書いていきたいので、今後ともお付き合いいただければ幸いです。
2007.4.21 マキハラ

タイトルをスピッツで統一できたのと、「ゴロトシなんだから吾郎で始まって寿也で終わりたい」という、最初から考えていた、謎めいた野望が達成できたのが一番嬉しいです(笑)
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